ペルー/ボリビア
フォルクローレ
フォルクローレという言葉は,もともとは英語のフォークロア(
民俗,人々が文化などを伝えていくことなど)を意味します。これが同じつづりのまま
スペインに入り,20世紀に入ってからしだいに民俗音楽のことを指す言葉として使われるようになりました。
現在では意味がさらに広がって,中央アメリカや南アメリカの
民謡の形を借りたポピュラー音楽や,民族音楽的な
要素をもつ
大衆音楽までもが,
フォルクローレと
呼ばれているようです。
日本では,フォルクローレというと,主に南アメリカのアンデス地方の民族楽器であるケーナ(尺八に似た楽器)や,チャランゴ(アルマジロのこうらを胴に使った弦楽器)などを用いて演奏する音楽を指すのが習慣となっています。
この音楽には,大航海時代以来の南アメリカ大陸の歴史が刻まれています。というのは,もともとその地に住んでいたインディオの音楽,スペインの都市音楽,そしてアフリカの音楽のリズムなど,さまざまな要素が混ざり合ってできているからです。そのため,いろいろな音楽の気分がはば広く感じられ,どこか異国的な味わいもあります。
【参考曲】
・「コンドルは飛んで行く」
この曲は,ペルーの作曲家,ロブレスが作曲したスペインの植民地支配に対するインディオの反乱をテーマとしたサルスエラ(小さな民族的歌劇)「コンドルカンキ」の中の1曲で,ペルーの古い民謡をもとにしてつくられました。
その後,ヨーロッパに住む南アメリカ出身のグループ「ロス インカス」のメンバーのミルチベルクという人によって,ポピュラー風につくり変えられました。さらにこれをもとにして,アメリカの人気フォーク
グループ「サイモンとガーファンクル」が英語の歌詞を付けて歌い,世界的な大ヒットとなりました。
ハンガリー
ロマニーの音楽
ハンガリーの民族音楽は,マジャール人(ハンガリー人は自分たちをこう
呼びます)の
民謡と,
ロマニー(かつて一つの場所に住むことなく,いろいろな土地に
移り住んで生活していた人)の音楽との2つに大きく分けられます。その中でも,
バイオリンと
ツィンバロムの
演奏を中心とする
ロマニーの音楽に,18世紀後半から19世紀にかけて,ヨーロッパの人々は
夢中になったといいます。
ツィンバロムは,ダルシマー(ばちで弦を打ちながら演奏する弦楽器)という楽器の仲間で,ピアノやクラビコードという楽器の祖先に当たる楽器です。楽器の構造には,わずかなちがいが見られますが,同じ種類の楽器は,ヨーロッパをはじめとして,西アジアや中央アジア,東アジアにも広く見られ,地域によってさまざまな名前で呼ばれています。古い歴史をもつ楽器ですが,民族楽器としてさかんに使われるようになったのは,18世紀から19世紀にかけてで,とくに東ヨーロッパでのロマニーの楽団には欠かせないものとなりました。
今日では,特にハンガリーやルーマニアの代表的な民族楽器として知られるツィンバロムの楽器の形は四角形で,表面は音をひびかせるための板になっています。その上に張られた多数の細い金属製の弦を,フェルトの付いた2本のばちで打って音を出します。
【参考曲】
・「花の季節」
この曲は,ロマニーの音楽の代表的な形式であるチャールダーシュ(ゆるやかな速度で始まる導入部と速い速度の主要部からなる)でできていて,バイオリンとツィンバロムなどを使って演奏されます。
スペイン
フラメンコとは,
南スペインの
アンダルシア地方に住むことになった
ロマニーたち(一つの場所に住むことなく,いろいろな土地に
移り住んで生活する人たち)が,大きくかかわって生まれた民族音楽や
踊りのことです。
フラメンコの大きな特徴は,歌(カンテと呼ばれる),ギター演奏(トケと呼ばれる),踊り(バイレと呼ばれる)の3つが常に結び付いていて,たがいに,なくてはならないような関係になっていることにあります。
さて,フラメンコの起源については,いろいろな説があるようです。その中でも,アンダルシアの「ヒターノ」と呼ばれるロマニーが,大きな役割を果たしたといわれています。かれらは,生活するためにお祭りや酒場などで歌って踊りながら,その貧しさや苦しさを人々に伝えようとしました。また,歌に東洋的な色合いも加えるなど,フラメンコならではの歌い方や味わいをつくりあげていきました。
これがしだいに人々の間で人気となり,フラメンコを仕事として踊る人も出てきました。20世紀になると,舞台でも取り上げられるようになり,これが世界的に広まりました。
【参考曲】
・「わたしの馬は恋をした」
この曲は,もとはセビリア地方(アンダルシア地方の西方)の民謡です。ギターで演奏される,心に残るような和音や旋律に,手拍子やカスタネットによる複雑なリズムが重なっています。また,フラメンコにとって,とても大切な“かけ声”も,ところどころできくことができます。
明るい歌声とギター,また多くの種類のリズムが重なったり交じったりする様子を感じ取りながら,ききたい曲です。
ロシア
バラライカは,
ロシアでとても人気のある楽器で,ギターと
似た
構造をしています。
木製で,三角形の
共鳴胴(音をよくひびかせるための箱)とそこからのびる長い
棹(ネック)からできていて,3本の
弦が
張ってあります。ネックには,指で弦をおさえる場所を
示すフレットというものが付いています。
バラライカは,17世紀ごろ,ドンブラ(洋ナシのような形の胴をもつ弦楽器で,やはり長いネックをもっている)をもとに作られたといわれています。バラライカの胴が大量生産に適していたことから,後にドンブラよりもバラライカが主流になってしまいました。
19世紀末に改良され,現在では音域の高い順からピッコロ,プリマ,セクンダ,アルト,バス,コントラバスの6種類があります。バラライカで使われる弦には,スチール弦や,羊やぶたの腸から作られるガット弦と呼ばれるものなどがあります。
主に民謡や踊りの伴奏に使われますが,大小さまざまのバラライカを使った大合奏(バラライカ
オーケストラ)もさかんで,現在ではときどき,外国への演奏旅行も行われています。
トレモロと呼ばれる,同じ音を急速にくり返して演奏することによって長い音を表現したり,音の余韻をふるわせたりなど,バラライカならではの音色や演奏の仕方もあります。
【参考曲】
・「カリンカ」
ロシア民謡の中でも,特に有名な曲です。ロシアでは主に結婚式のときに歌われていて,大勢の人が踊るパーティー用の音楽として演奏されます。題名の「カリンカ」は,イチゴに似たロシアの植物の名前で,花よめを表すものともされています。日本では,日本語の歌詞が付けられ,合唱曲として親しまれています。また,この曲のゆるやかな部分と,急に速くなる部分とのテンポの移り変わりは,たいへん特徴的です。
ルーマニア
ナイは,
パンパイプ(
パンフルート)という楽器の,
ルーマニアでの
呼び方です。
ルーマニアの
ナイは,ギリシャの羊
飼いが伝えたとされる,
シュリンクスという笛がもとになったといわれています。
もともとは,長さのちがう木でできた管を7〜8本たばねただけの簡単な構造で,下部には木のわくがはめこまれていました。「ラウタール」と呼ばれる,音楽を職業とする人々が愛用してきた楽器でしたが,20世紀に入り,ファニカ
ルカという名演奏家が現れ,管の本数を20本以上に増やしました。それによって音域が広がり,楽器の演奏法も改められ,ナイは独奏楽器としての地位を築きました。今日では,ルーマニアの民族楽器の中でも,最も有名な管楽器とされています。
ナイの管は,演奏者から見て左へいくにつれて音が高くなるように並んでいます。その音色は,ほかの楽器ではきくことができないようなみりょくをもっています。
【参考曲】
・「かべぬり女のスルバ」
この曲名にある「スルバ」は,ルーマニアの代表的な民族舞踊のことです。その身ぶりが両手でかべをぬる動きと似ているため,この曲名が付けられたといわれています。
ナイの演奏に,ハンガリーのツィンバロムという楽器と同じ種類の楽器の伴奏が付けられた,とても速い2拍子の曲です。
オーストリア
ヨーデルは,アルプス地方の牧場で働く人々やそこに住む人々の間で歌われている民謡やその歌い方を指します。
アルプス地方は,ヨーロッパのほぼ中央に位置し,
オーストリアの
チロル,
スイス,
ドイツの
バイエルンなどの
地域を指しています。アルプスの美しい山々に囲まれていながらも,
厳しい自然と向かい合って生活していく中で,この地方
独特の生活様式や文化が発達しました。
ヨーデルもまた,そのような生活から生まれた
伝統的な音楽文化の一つといえるでしょう。
ヨーデルの特徴は,一度きいたら忘れられないような歌い方にあるといってもよいでしょう。その特徴は,胸にひびかせる声と,高い裏声(ファルセット)をすばやく交替させるという発声のしかたにあります。これによって,旋律が上下に激しく動くようにきこえるのです。ヨーデルは主に,歌の始まりや,くり返しの部分などで歌われます。
言い伝えによると,アルプスの牧人たちが,牛や羊などを呼び寄せるために使うアルプホルン
という楽器の音をまねたことから始まったともいわれています。
世界でこのような歌い方をする例は少ないといわれていますが,アフリカに住むピグミー族の歌で,ヨーデルと似たような歌い方をする例があります。
イギリス
バグパイプ
イギリスという国の正式な名前を知っていますか?「グレート
ブリテンと北アイルランド連合王国」といいます。このうちのグレート
ブリテンは,スコットランド,イングランド,ウェールズからなり,それぞれは歴史的にも文化的にも,民族的にも異なります。ここで取り上げられている
バグパイプは,
スコットランドの代表的な民族楽器として人々に親しまれています。名前がちがうものや
似ているものを入れると,古くはヨーロッパ全土や
近東諸国(トルコやシリアなど,ヨーロッパに近い東洋の国々)にまで広く
分布していて,その中でも特に,スコットランド人が
属する
ケルト民族が住んでいた
地域で用いられていました。この楽器の
起源にはいろいろな説がありますが,いずれにしても3000年以上もの歴史があるといわれています。
演奏するときは,羊の皮をなめしたものを主な材料とするバッグというふくろ状の部分につながった管に息をふきこみ,そのバッグに空気を送ります。それを小わきにはさんでおすと,複数の音管に空気が流れ,音が出るというしくみです。
音管には,旋律をかなでる主要管(チャンターと呼ぶ)と,1〜3本のドローン(とぎれることなく音を出し続ける)管があります。
このバグパイプの演奏では多くの場合,装飾音(旋律などをかざる音)を多く用います。これはドローンが休みなくひびき続けていることに対して,変化をつけるという意味もあります。
【参考曲】
・「アメージング グレース」
「アメージング グレース」は,「おどろくばかりの神の慈悲」というような意味で,もとはイギリスの賛美歌だとされています。その旋律の美しさからバグパイプでも演奏されるようになりました。この曲はまた,アメリカではゴスペル音楽としても広く歌われています。
・「スコットランド ザ ブレーブ」
「スコットランド ザ ブレーブ」は,「バグパイプの曲といえばこの曲!」というくらい人気のある曲です。
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