モリンホールは,「
馬頭琴」とも
呼ばれます。2本の
弦をもっていて,弓を使って音を出す楽器です。「モリン」とは馬という意味で,台形の
共鳴胴(音をよくひびかせるための箱)からのびる
棹の先には,馬の頭の形をしたほり物が付いています。
弦と弓には馬のしっぽの毛が使われています。また,弦の音の高低の並びは,バイオリンなどの弦楽器とは逆になっています。昔は,共鳴胴には,動物の皮が張られていましたが,今はほとんどが木製になっているそうです。
モリンホールは,モンゴルの人々にとって特別な民族楽器で,独奏,合奏,歌の伴奏など,いろいろな場面で使われています。バイオリンと同じように弦をこすって音を出す楽器ですが,バイオリンのものとはちがう,どこかのどかで,人の声を思わせるようなしっとりとした音色が魅力的です。
この楽器は現在,「モンゴル国型」と「中国の内モンゴル自治区型」の2種類があって,楽器の形,弦の音を調節する方法,弦の材質,使う楽譜にそれぞれちがいがあります。例えば,モンゴル国型では五線譜を使いますが,内モンゴル自治区型では,五線譜ではない楽譜をときどき使うようです。楽器のひき方はチェロのひき方と似ていて,共鳴胴をひざの間にはさんで,棹を立てて,右手で弓を使って演奏します。
【参考曲】
・「三頭の駿馬」
「三頭の駿馬」は,オルドス(現在は中国の内モンゴル自治区の一部)地方の民謡です。心にしみるような豊かで美しい旋律は,単純でありながら,それがよけいに演奏者の心を伝えてくるかのようで,きいていると心が安らぎます。モリンホールの美しい音色を十分に味わえる曲です。
ちなみに,「駿馬」とは,足の速いすぐれた馬のことです。
ホーミー「人間が一度に出すことのできる声は一つだけ」という,みんながあたりまえのことと考えている
常識を
破るものが,
モンゴルの
ホーミーでしょう。この
ホーミーは,
モンゴルの特定の部族の
男性のみに伝えられる,特別な発声を使って歌われる
民謡や発声法のことを指しています。
もとになる声は,低い音域を保ち続けながら発声されますが,よくきいていると,その上にまるで口笛のような高い音が同時に鳴りひびき,旋律をつくっています。そして,そのゆったりとした歌声や音色,ひびきが一つになって,きく人の心にしみこんできます。
ホーミーを歌うことはたいへん難しく,さらに体に大きな負担がかかるため,この歌い方をすることができる人は少ないといわれています。また,このことは女性や子どもにホーミーの演奏者が見られないことにもつながっています。
【参考曲】
・「故郷」
この曲は,ヤンチン(楊琴)という楽器の伴奏とともに演奏されます。ヤンチンは,台形の箱に張った金属製の弦を,2本の細い棒で打って演奏します。ホーミー独特のひびきとヤンチンの音色がみごとに合わさって,おおらかでありながら,どこかもの悲しげな味わいを感じることができます。特別なひびきをもった旋律からは,はるか遠くにある地平線を思わせるような広大な様子が感じられ,故郷を思う人々の心を伝えているかのようです。