細川紙のことを、谷野裕子さん(手漉き和紙職人)に詳しく伺いました。

また、スペースの関係で誌面に掲載しきれなかった工房の様子や、和紙を使用した製作物についてもご紹介します。


Q. ユネスコ無形文化遺産に登録された細川紙は、どのような和紙ですか?

A. この地域で作られている和紙を総称して「小川和紙」といいます。その中でも、材料の全てに国産の天然素材を使用し、さまざまなルールをクリアしたものが「細川紙」と呼ばれます。外国産の楮や化学的な糊が少しでも入ると、細川紙とはいえなくなるんです。つまり、小川和紙の最高級ブランドが、細川紙なのです。

Q. なぜ「細川紙」という名称なのでしょうか?

A. 古くから紀州・高野山麓の細川村(現在の和歌山県高野町)では和紙を作っており、その技術がこちらに来たそうです。その技術を受け継いで江戸に向けて製作を始めたことで、この地域での和紙製作が盛んになり、本家本元の細川村よりも有名になったようです。現在は和歌山県でも、職人さんたちが細川紙を製作しています。

Q. 細川紙に最適な使用例を教えてください。

A. 最もよいとされるのは、本襖の裏張りです。昔ながらの襖には、5〜7枚の細川紙を袋張りし、いちばん上に、越前和紙の本鳥の子紙(ほんとりのこし)など白くてきれいな紙を貼ります。細川紙に要求されるのは、頑丈さです。そのため、表舞台にはあまり出ないで「縁の下の力持ち」の役割もこなします。ただ、紙は自由に使ってもらうものですから、絵を描いたり文字を書いたり、また障子紙や壁紙に加工するなど、どのように使用していただいてもいいんです。

Q. 谷野さんがふだんお作りになっているのは、細川紙以外の和紙も多いですね。

A. はい。手漉き和紙であっても、例えばホテルの壁紙などは色が入りますから、その時点で細川紙ではなくなります。依頼を受けて製作する場合、その用途によって和紙の原料も多少変化しますから、細川紙の厳しい基準を満たせないのです。しかし、細川紙の技術は、ふだんの仕事にも非常に役立ちます。この技術は、必ず次の世代へ残していかなくてはなりません。

Q. 1日にどのぐらいの手漉き和紙を作ることができますか?

A. 原料さえあれば1人で1日150枚、大きい紙だと、がんばって100枚でしょうか。紙の大きさにもよるので、はがきだと500〜600枚。はがきといえば、私がまだ研修生だった頃、テレビの企画で職人たちが24時間、和紙のはがきを作り続けたことがありました。途中からみんなバタバタ倒れて寝ていましたが、あのはがきは一体どこに行ったのでしょう?今となっては笑い話です(笑)。


「手漉き和紙 たにの」工房の外観

楮(こうぞ)

和紙の材料

楮を煮る釜

楮の皮をたたいて繊維をほぐす機械

約90年前、足立区千住の両替商で使用されていた大福帳。

100年ほど前に和紙で製作されたもので、非常に軽く、文字は墨で書かれている。

火事が起こると井戸に放り込み、また乾かして使っていたという

和紙を乾燥機に貼り付ける。

内部に入っているお湯と湯気の効果で、触ると温かい

和紙を使用した製作物

①スピーカー

和紙を使用した製作物

②ベビードレス

和紙を使用した製作物

③照明「and-on」。

世界最大のデザインアワードの一つ「iFデザインアワード2021」を受賞した

和紙を使用した製作物

④茶室(個人邸)


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